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結論、君よ自由に生きるべし



探偵


25才の頃。

この頃が一番、職業というものに悩み苦しんだのかも知れない。

就職してみても、バイトしてみても、

どうにもこうにも、しっくりこない。

なんと言うかこう、苦痛でしかない。

毎日、毎日、苦痛。

とにかく朝がつらい。

そして前日の酒が残った頭で乗り込む通勤電車に絶望する。

結果、仕事をやめる。


そしてそんな日々をすごした僕はある決断をした。

思い切って憧れの世界に飛び込んでみよう。

それが僕が25才の頃、かいま見た探偵という

調査業の世界だった。




探偵というと何を想像するだろう?

探偵物語?


私立探偵 濱マイク?


のぞき屋?


それとも、傷だらけの天使?



僕は全てが好きだった。

憧れていた。



この世界に入りたいという人はとても多いらしい。

でも、どうやったら入れるかわからないという人が圧倒的多数。

それくらいシークレットな謎の世界。

でも探偵興信事務所というのはけっこうな数

この国に存在する。

幸いにも僕の場合は先の就職先である求人広告会社がきっかけとなった。

そこで僕はすでにお目当ての調査会社のことを知っていた。

僕は緊張しながらこの会社に連絡をとり、まずはバイトさせてもらうことにした。

面接があったが、以外とすんなり働かせてくれた。

この世界に入りたいという人は思い切って電話帳かなにかを見て電話してみたら、もしかしたら道は開けるかも知れない。

でも大体は断られるらしいが・・・


とにかく探偵デビューである。

僕の胸は躍った。

初出勤の際のBGMは探偵物語のオープニングテーマ

「BAD CITY」 by Shogun だった。







最初の仕事は尾行だった。

浮気をしているという男性の帰路をつけ、

その行く先を探る。

非常に簡単な仕事であったが、すばらしく緊張した。

そして尾行された人には申し訳ないのだが、

正直、興奮した。

正直、楽しい・・・と思った。





一緒に働いていた仲間も多彩だった。

何をやっていいかわからないから、とりあえず・・・というタイプや

何か事情があるらしく、思いっきり影のある人。

僕はどう見られていたのだろう。





仕事の内容は80パーセントが浮気調査だった。

残りの20パーセントは借金から逃げた人の捜索や、信用調査など。

たまに意味不明な電波な依頼もあった。





色々なことが起こったの覚えている。

尾行がばれて監禁されそうになったこともある。

この時は正直、死ぬかと思った。


信用調査で失敗してクライアントからこっぴどく

怒られたこともある。


でも、まあ、楽しかった。

最初は。





しばらくすると、僕はこの業界の持つ毒気にあてられはじめていた。

この業界の掟は、簡単に言ってしまえば「金」だと思った。

要は「金」さえもらえば何でもやる。

※さすがに人殺しはしないと思うが・・・

この「金」のルールに僕はつらさをおぼえはじめた。



いつのまにか僕は、僕が一番否定したい職業についている気がしてしまった。


こんなことがあった。

依頼者は女性だった。

ある男性の行方を知りたいという。

そしてこちらが提示する調査費用をすんなりと支払った。

確かその時の調査費用は200万円くらいだったと思う。


そして調査は開始された。

意外と難航した調査だったが、ありとあらゆる手を使って男性は探し出された。

男性は地方の小さなアパートにいた。

そこで小さな家庭を築いていた。

小さな幸せを築いていた。





男性のことを調べているうちに色々なことがわかってきた。

そしてなぜ依頼者の女性が男性を探すのかということもわかってきた。

簡単に言うと、依頼者の女性はストーカーだった。

勝手にその男性のことを好きになり、その男性の幸せを阻もうとしていた。

その女性から逃れるために男性は、職もなくし、住むところも変え、地方の小さなアパートで暮らしていた。


僕たちはその男性の所在を知ってしまった。


そしてその報告書を依頼者に渡してしまった。


調査費用という名の「金」と引き換えに。



調査報告書を受け渡す時、初めて僕は依頼者の顔を見た。


金と狂気の匂いのする顔だった。





しばらくして、もう潮時かなと思い、僕はこの業界を離れた。


調査事務所の人々は皆、とてもいい人たちだった。

僕は業界を離れる際、その「金」の掟のつらさのことを、

その人たちに相談することは無かったが、

皆、そんなことはわかりきっていたように思う。


調査業は本当にハードだ。

夜通し張り込みなんて当たり前。


そんな中、その金の掟を背に皆、寡黙に任務を遂行する。

僕はその人たちにハードボイルドを感じるとともに


本当に僕は甘ちゃんなんだな、


としばらく立ち直れなかった。



(つづく)

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