その残業のせいと、そのストレスのはけ口となる連日深酒のダブルパンチで僕の脳ミソはつねに超低活性。生ける屍。ゾンビ状態で殺人的な満員電車プレスに必死に耐える。

おまけにその日はちょっと遅刻気味でかなーり大事な朝の会議に遅れそうでやべえやべえとかと思ってた。

成績の悪いダメサラリーマンだったから、けっこう会社とか取引先からも苛められていてね。 いつも何かミスしないかとビクビクしてた。

上司とかには毎日毎日、”もっと大人になれ”とか”お前の考えはようは甘ちゃんなんだよ”って言われててね。 そう何度も何度も言われると、僕もいつしか”そうだな。そういうのが大人になるっていうことなんだな。”とか思い始めたりしてね。困ったことに。

電車の中で目の前にいる若い女の子、学生さんかな、の様子が変なんだよね。
何かしきりに体を揺らしながら泣きそうな顔をしてる。
僕は何かな？と思ったんだけど、その答えは簡単でその女の子は痴漢されていたんだよね。
何かおっさんみたいな奴がチンコを出してその女の子の手に押し付けたりしてる。
そんな光景が僕の目の前にあったんだ。

で、その時僕はどう思ったかというと、

”こんな面倒なことにかかわったら朝の会議に遅れてまた上司に何か言われる！だから見て見ぬふりしよう”

だったんだよね。

もうね情けないんだけど、本当にそう思ってね。
あろうことか、痴漢にあっている女の子を救うよりも仕事である朝の会議を優先させることが社会人として正しい、”そうだこれが大人の生き方だ！”とその時は思っちゃってね。

その女の子はさらに泣きそうな顔をして、でも怖いみたいで声には出せずに周りの人に無言で助けを求めていたんだけど、僕はただそれを死んだような顔して無表情で無視して目的の駅で降りて。。。

それでね、朝の会議には間に合ったんだけど、その会議の内容がね。ほんとくだらない内容なんだ。 新商品のイベントのコンパニオンの制服はミニスカートにするか、ホットパンツにするかみたいなさ。

そんな話しを下卑た顔したいい年したおっさんが会議と称して朝っぱらからしているんだ。

そして最悪なのがその末席で話しを合わせてニヤニヤしている僕。

僕、このことが後で冷や水を浴びせられたように悲しく思えてね。

あの痴漢されてた女の子を無視した対価が、これか。
これが大人の生き方ってやつか。
このニヤニヤして調子を合わせているのが社会人として立派ってことか。

って心の中で爆発しちゃってね。
自分のことが情けなくて情けなくて。。。

それで僕はやっと自分が間違っていると自覚を持てたんだよね。
いつのまにかジワジワとジワジワと狂わされていたんだなあと。

そんなこんなが積み重なっていって僕は、雇われない生き方をしよう。組織に従属しない生き方をしよう。安定なんかいらん、それよりも胸をはって正しい！と思える生きかたをしようと思って今にいたるんだけど、まあ、世間からは特に昔の上司なんかが見れば、いまでもあいつは”甘ちゃんだなあ”と思われているんだろうな。

だけど会社や企業、そして頭がおかしくなりそうなほどの過酷な労働の裏にはそういう、いつのまにか自分の感覚が麻痺してしまうような恐ろしさがあるというのは事実だと思うんだよね。

僕は今、一児の息子の父親だけど、父親の立場からもはっきりとこう思えるんだ。

愛するものたちには”たかが仕事なんかで本当に大事な物を失って欲しくないんだよね。”

あの時、痴漢されていた女の子、今はどこで何をしているのだろう。

今はどこでどんな風に吹かれているんだろう。

幸せになっているといいんだけど。

#YEAR 6

僕がこの時に学んだもの。

この社会には正しいことも多いけれど、でも厳然としてイカレてる、間違っていることも多いと僕は思う。

”大人なんだから。”とか”社会人として”とか耳障りのいい言葉には気をつけてくれ！

頼む！すべての愛しき友たちよ。






終わり。

MIZK
１９７1年１月30日生
B型

フリスタ編集長

ＷＥＢ　http://www.mizk.net/


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